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愉快なら善、不快なら悪という独特のレトリック [人付き合い]

「キミはものすごく淋しいんだね」

涙がうっすら滲んでいる。
一言も言わないが、相談者のランディは無言のうちにすべてを語っている。

「・・・」「どんな気持ち?」「最低ですよ」「忘れようとしても、できないのだろう?」「できません」「これ以上、いまのままでいられる?何か学ぶことある?」「それ、どういう意味ですか?」

その表情は、彼の真剣さを物語っていた。
自分の気持ちをありのままに受け入れ、その気持ちから学ぶ。
そのコツを教えるのは簡単なようで、とてもむずかしい。

「キミはいつも、ひとりぼっちの気持ちから逃げてきたね」「そういう気もします」「では、これからはそれをしてはだめだ。闘おうとしてもダメだ。孤独がどういうものか、とことん付き合ってごらん。おおいに孤独を味わってみるのさ。その気持ちこそが、長年キミが抱いてきた本当の自分の気持ちではないのかな。この気持ちを足場にするしかないんだよ

ここではじめて、彼はカウンセラーに従うようになった。

「そうすると何かいいことでもあるんですか?」「じゃあ、キミの孤独感が、キミに何をさせてきたか、一緒に考えてみよう」

彼にはまだ、これから先、自分がどうなるか、はっきりつかめていなかった。

「ええ、お願いします。なんてったって、あなたはカウンセラーですからね。どこから始めましょうか?」「いま、ここからだ」「は?」「いま、孤独だろう、ここで」「ええ」「それがどんな気持ちか、感じたり、味わったりしてごらん。キミは孤独なんだ」

この単純な事実が彼の心に滲みこむまで、ちょっと間をおいた。

「自分は孤独だと思うと、心にどんなことが浮かぶかな?」「これ以上、たまらない、止めてくれという気がします。逃げ出したいですよ」

彼はうなずき、カウンセラーは続ける。

「つまり、いまのキミの中には孤独と恐怖という二つの感情が生じている。さて、どんな気分?」「一刻もはやく、ここから逃げ出したい」「孤独になると、怖くなり、逃げ出したくなるということだね」「あなたがそう言うなら、そうなんでしょ」「違う!私がそう言ったから、というのではないんだ」

このカウンセラーの現実指摘は、彼にはピンとこなかったらしい。
ただ彼は緊張して、じっとカウンセラーを見つめた。

「キミ自身の気持ちを言ってみなさい。感じているのはあなたで、私ではないんだから」
「オーケー、ちょっとしたパニックです。まるで火事に遭ったみたい。逃げ出さなくちゃ」
「よし、それじゃあ、そこでどうするの。本当の気持ちが、孤独で、怖くて、パニックで、つまり人付き合いが怖い。その先は?」

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ランディは、戸惑いながら答えた。
「その先は、また振り出しに逆もどりですよ」
「振り出しに戻る、その繰り返しだね。混乱してきたね。さて、どうなる?」「本当に、ボクの頭、おかしくなりそうですよ」真っ赤になって、ちょっとクスッと笑った。
「もっと話してごらん」「チア・リーダーと初めて寝た晩のことを考えています」

カウンセラーは、カウンセラーも人間だということを彼に知らせるために、微笑んでみせた。
そしてさらに作業を続けた。
彼にもっと作業をしてもらうとしたら、いましかない。
「キミの頭の中に何が浮かんでいるのか、私に話してごらん」「孤独だと思っていたら、いきなりベッド・インでしょ。狂っていると思いましたよ」「これまでのキミの頭の中を整理すると、孤独、恐怖、パニック、混乱ときて、例のセックス体験を思い出しているわけだが、あのセックスはキミにとってどんな意味があったのだろう。どんな感想?

ランディは、ちょっとのあいだ戸惑って、「何が何だかわからない。狂っている。感想をなんて言われても・・・」

不合理な状況の意味を考え、それと対峙させることは重要だ。
「いや、経験するっていうことは、どれも正しいことさ。自分の考えでチア・リーダー嬢とセックスしたことは、別に間違ってないよ」

「え?すべての経験が正しいっていうのは、どういう意味?孤独が正しい?どうして孤独が正しいの?」

「キミがそれを経験したんだし、それを経験したキミは正しいということですよ」
「よくわかりませんが・・・」
「わからなくなるのは、キミが悪い気分になったとき、自分のすべてを悪いと決めてしまうからだよ。だから、わからないんだ」

ランディはカウンセラーのほうを向いた。
ようやく、少しわかりはじめてきたようだ。
しかし、自分の行為と感情とは別もので、まるでちがった評価をされることがあるなんて、彼は一度として考えたことがなかったらしい。
もう一度、話をもとに戻そうとしてカウンセラーは、また彼との対話を始めた。

「ますます、こんがらかってしまったみたいだね。
キミはやっぱり、自分はダメだと感じているようだ。
セックスの話が出てくると、すこし気分がよくなるんだろう?ちょっとの間は」

「いずれにせよ、ボクはあなたの言う通りにします。というより、僕自身の考えた通りに。ボクはあなたの言う通りにしているし、そのあなたは、ボクの気持ちをおいかけている・・・ああ、やっぱり、混乱してしまう」

「いや、そんなことしていないよ、大丈夫だ。ここに来た時の孤独な気持ちから、いろいろな気持ちを経て、さっきのセックスの話までたくさんのことがありすぎて、気持ちの変化に戸惑っているだけだ。そのまま、先を続けよう。
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